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2017/05/27 13:15 |
==NOVEL PHILOSOMA== 10

==SCENE 07==

 マッスルを始末したデルタは、ラングを先頭に採掘タワーへ飛行を続けていた。
 黒褐色に塗られた採掘タワーは、高さがゆうに500メートルはあった。220の人工建造物の中ではもっとも巨大だ。データによると、220の住民は採掘タワーを「バベル・タワー」と呼んでいた。創世記に記されているバベルの塔は、神の憎しみを受けて途中で工事が中断されてしまったのだが……220に建てられたバベルの塔は、イプシロンワン採掘のシンボル的存在となり、その偉容を誇っていた。
 しかし、今のタワーは呪いの塔だった。住民を飲み込み、テロリストたちが彼等の生死を握っている……バベルは再び呪われたのだ。
 その時、電子音と共にディスプレイにマップが映った。続いて地下動力炉のCG画面が出る。同時にキナバルの通信が入ってきた。
「ギャラントよりチャーリーリーダー、ミショー大尉。生存者は地下採掘場だ。救助の指揮を執れ」
 ラングは思わず息を呑んだ。それは踏み絵だった。ミショーがフライト・リーダーとして再起できるかの……。
 かなりの間があって、ミショーの沈んだ声が聞こえてきた。
「大佐、わたしは判断ミスで編隊を失いました。指揮官の資格は……」
 なんてこった……ソ連空軍の女性エースパイロット、大祖国戦争の英雄リディア・リトヴァクをしのぐ華々しい戦歴のミショーが、戦意を完全に失っている……。ラングはさすがに頭に来て怒鳴った。
「ミショー、ヒロイズムは止せ。お前は最善を尽くしたんだ
「………」
「おまえならやれる」

 今度の沈黙は長かった……ラングはミショーの戦いを感じ取った。この戦いは、自分自身との戦いだ。
 指揮官となる者は、常に責務を負う。任務への責務、部下の安全の責務……だがこの二つは相反することが多い。任務達成のために、部下を死に追いやる決断を下さねばならぬ時がある。だからこそ、指揮官と部下の間には信頼関係が必要だった。二つの間をつなぎ止めるのは信頼しかなかった。
 今のミショーは、部下の信頼を裏切ってしまったと自分を責め続けている。だが、敵はバイオとメカのハイブリッド……高出力レーザーを装備する強敵だった。その不意打ちを喰らったというのなら、犠牲はやむを得なかったのだ。残酷な話だが、どうにもならない。何事にも最初はあり……それはたいてい犠牲を伴うものだ。今回の損害もその一つだ。
 その重圧に耐えられない者は、指揮官の座を降りるしかない。しかし、誰かがその役を果たさなければならない……ミショーはまだ部下たちから信頼されていた。それは、指揮官としての責務を果たすのに充分すぎるほどの資格だ……ラングは心からそう思った。
 永遠とも思えるの沈黙のあと、ミショーは答えた。
「……ラング……ありがとう」

 二人の交信を、カレンは複雑な思いで聞いていた……。彼女は、ラングとミショーの結びつきをはっきりと感じていた。それは指揮官同士の共感と結びつきであり……指揮官同士の共感……? 本当にそれだけだろうか?
 カレンの心にどす黒い不安が広がった……まさか……そんな筈はない。ラングは私のものなのだ。誰がなんと言おうと……。
 彼女は不安を追い払うと、スティックを傾けた。そこへラングのコールが響いた。
「全機、ミショーに続け」
 ……ミショーに……ラングはそう言った。
「ラジャー」
 コールを返しながら、彼女の不安は再び膨らみ始めた……意識のスイッチを切り替えることが出来なかった。この事実は、彼女がどうやってもお嬢さん育ちから抜けきれないことを最も端的に示していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 クラークはディスプレイから顔を上げて言った。
「ミショー大尉の任務達成率は97%か……これなら安心して任せられる」
「…………」
 コックスは微かに眉をしかめた。この男は、いったい何なのだろう? クラークは自軍の損害には全く無頓着だった。ステロタイプの戦争物ではこの手の将軍が出てくるが、現実にはそんな愚か者は滅多に存在しない。多くの指揮官は、自軍の損害には敏感だった。ワーテルローの戦いでナポレオンに勝った、ウェリントン将軍の名言がここにある。
「戦争に勝つほど恐ろしい話はない。負けることを除けば……」
 損害に関する考察に満ちあふれた言葉。
 だが、仕方あるまい……コックスは思い直した。クラークはしょせん素人だ。軍事的素養のない者に、損害の痛みを理解しろと言っても無駄なのだ。自軍の損害さえ無視することができるのなら、日露戦争で旅順要塞を陥落させた野木将軍は、プロの間でも名将と呼ばれただろう。プロとアマチュアの違いはこの点において決定的だった。コックスはその点を理解しつつも、クラークの態度に割り切れぬものを感じていた。

 通信長がキナバルに電文を渡すのが見えた。あれは……フラッシュ通信だ。いったい何が?
 コックスは眉をひそめた。キナバルの顔色が蒼白になるのが、この距離からでも判った。キナバルは傍らの士官を手巻きで呼び寄せ、何事かを囁いた。頷いた士官はデスクに戻って何かを……いったい何をする気だ?
 コックスは立ち上がった。士官は拳銃を手にしていた。
「大佐、いったいなにが……?」
 キナバルは無視した。彼は銃を携帯した士官と共にクラークの前に立ちふさがった。
「君を逮捕する」
 ミショーのストレガは、工業エリア・リアクターセクターにあった。そこは巨大だった。通路の幅は200フィート、高さは400フィートはあるだろう。
 警報が鳴った。ここからは危険区域だ。ヘッド・アップ・ディスプレイにマーカーが点滅した。作業用エレベーターが迫っていた。
「全機、アリスに操縦を切り替える」
「ラジャー」
 ここから先は、もはやマニュアルでは操縦不能のエリアだ。頼れるのはアリスだけだ。
 ミショーたちはストレガをグランド・モードに入れ、最初のエレベーターをクリアした。数フィートの差でシャフトが頭上をかすめるのを、ミショーたちは息を詰めて見守った。対地速度は300マイル……ぶつかったら死は一瞬のうちだろう。

「君は何者だ?」
 キナバルの鋭い声がCICを満たした。
 クラークは士官に拳銃を向けられても平然としていた。
「大佐、いったいどうしたんです?」
 駆け寄ったコックスに、キナバルは無言で通信紙を渡した。コックスはひったくるようにしてそれを受け取り───息を呑んだ。 
 

 Z08421924DEC
 最高機密
 発……連合国安全保障局
 宛……UNF-SCVギャラント
       スタンレー・キナバル大佐
 
 1.ローランド・クラークは、実在の人物ではない。
 
 2.「クラーク」は、人工知能専用の疑似生命プログラムである。
 
 3.「クラーク」を名乗る人物の身柄を勾留、尋問せよ。

 
 コックスは呆然としていた。クラークが疑似生命プログラムだと……? それでは目の前のこの男は……?
 不意にコックスは電撃に打たれたようになった。220のデータは全て目の前の男がコンピュータに入力した……もしそのデータが誤っていたら……いや、間違いない。手を加えられたデータに違いない……ということは、デルタは……。
「大佐……」
 コックスの声は震えていた。
「このままでは、デルタは……」
 キナバルの顔はまるで死人だった……彼も同様の結論に達していたのだ。
「カレン……」
 キナバルの声は幽鬼のようだった。

「現在位置、リアクター・セクター」
 警報が鳴った。カレンはハッとした。
「前方、高エネルギー反応探知。リアクターオーバーロード」
「暴走!」
「なるほどな。プラズマシールドもそれが原因か」
 ラングの落ち着き払った声が響いた。
 タワー上空にはプラズマが発生していた。それ故に彼等は飛行が困難な地下ブロックからの突入を余儀なくされているのだ。
「電位上昇。コウション、レーダーシステム・ブラックアウト」
「何ですって?」
 カレンは思わず呻いた。だが、災厄はこれからだった。警報音が鳴り響くと同時にアリスのコールが立て続けに始まった。
「サーキット・クローズ。IRシステム、ブラックアウト。FCS機能低下。フライ・バイ・ライトシステム、機能低下」
 たまらなくなったカレンは怒鳴った。
「アリス、バックアップ」
 数秒後、警報が止まった。だがそれはものの30秒も保たなかった。再び警報音がコクピットを満たし始める。
 カレンは思わずパネルを蹴った。お嬢さん育ちの彼女には似合わないことだが、そうしなければ気持ちが収まらなかった。
「これでどう戦えっていうの? アリス、バックアップ強化!」
 不可能を意味する不快な電子音が響いた。
「アリス、バックアップ!」
 カレンはヒステリー寸前だった。見かねたラングはカフをあげた。
「無駄だ、カレン」
「でもラング……」
「泣き言は帰ってから聞いてやる。いいな、カレン」
 ラングの口調はだだっ子をなだめる父親のようだった。それが功を奏した。落ち着きを取り戻したカレンは、呟くようにコールした。
「……ラジャー……」

「フン……」
 ディースリーは微かに鼻を鳴らし、苦笑した。思った通りだ……ラングとカレンはやはりできている……彼はこの手の直感にも優れていた。些細な会話からでも、当事者がどういう仲なのか確実に判別できた。判らないのは、あの二人の関係だけだ。
 その瞬間、当事者達のコールが始まった。
「全機、こちらミショー。コミューターラインをサーチ。ただちに離脱する」
「ラジャー。こちらラング。全機、イメージセンサー使用」
 ラングとミショー……この二人の関係は謎だった。単なる指揮官としての間柄にしては……何かが違っていた。
 彼は肩をすくめ、前方に神経を集中した。戯れ言は戦いが済んでから考える事だ…。


==NOVEL PHILOSOMA==

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2010/04/15 01:23 | Comments(0) | TrackBack(0) | ゲーム

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