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2017/09/24 06:54 |
==NOVEL PHILOSOMA== 04

==SCENE 01==

「ラングよりディースリー、距離を詰めろ」
「ラジャー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ディースリーの機体がすこし前に出る。
「セブン・オ・クロックにボギー」
「スプラッシュ」
「フォックス・ツー・ファイア」
 コールと爆発音が響く中、ミショーは戦闘機動を繰り返しつつカレンとディースリーの動きを観察していた。
 二人とも、射撃の命中率はあまり高くないようだ。彼女は素早くパッドを操作して二人の命中率をCRTに出した。
「Shit……」
 思わず罵声が漏れた。カレンの方がディースリーよりも低い命中率だ。

 兵学校出の新入りに抜かれるなんて……モニターに映るカレンの機体に、ミショーは心の中で毒づいた。ミショーは、兵学校を始めとする学歴の高い者を軽蔑していた。
 だがそれは、彼女の頭が悪いことを意味しない。むしろ逆だ。ミショーは、かつて医大でウィルス学を専攻する学生だった。成績はトップクラスで、指導教官の受けも良かった。あの頃は輝いていた……未来への希望と、夢と、恋人と、そして何よりも愛する家族があった。生涯の最良の刻を選べと言われたら、ミショーはためらいなくこの日々を選んだだろう。
 だが、ひとりの酔っぱらいが彼女の運命を変えた。ミショーの両親は、信号を無視し、側面から突っ込んできた酔っぱらいの車のため重傷を負った。
 生きてさえいてくれたら……知らせを受けたミショーは車で病院に向かった。
 ここまでは、誰にでも起こり得る話だ。不幸な話なのは確かだが……。ミショーの悲劇はここから始まった。彼女は病院に向けて全速力で車を飛ばし、たどり着く寸前に、同様に飛ばしてきた救急車と正面衝突した……。
 救急車の患者とドライバーは重傷、ミショー自身も両足を複雑骨折し、肋骨を3本折った。折れた肋骨は肺に突き刺さり、危うく心臓まで達するところだった。衝突のショックでミショーは重度の脳震盪を引き起こし、意識不明の重体に陥った。
 彼女の意識が戻ったのは、事故から10日後だった。様態が安定するまでさらに10日……ミショーは両親の生存と救急車の患者の無事を知り、胸をなで下ろした。
 だが、それはすべて嘘だった。両親は事故から3日後に相次いで息を引き取り、救急車の患者は、手術は成功したが、院内感染で2日後に死んだ。医者は、ミショーの回復を待って真実を告げた。愕然とするミショーに追い打ちをかけるように、警察は彼女に過失致死罪を適用した。自責の念にかられたミショーはそれを受け入れ、回復を待ったうえで交通刑務所への収監が決定された。
 ミショーはすべてを失った。両親も、恋人も、財産も……では憎悪は? 両親を殺した憎むべき酔っぱらいはフロントガラスに頭を突っ込み、頸動脈を切って即死していた。彼女にあるのは自責と絶望と、20万ドルという莫大な賠償金の請求だけだった。
 コックスがミショーの前に現れたのはその時だった。彼は軍の入隊と引き替えに賠償金の免除と刑務所からの出所を申し出た。
 だが、幾ら何でも話がうますぎた。
 不審を感じるミショーに、コックスは、彼女がROTC───予備役幹部要請コースを受講していたことを思いださせた。彼女の成績は素晴らしかった。空前の好景気故、深刻な募集難に陥っていたUNFは、彼女の存在に目を付けたのだ。
 この女はダイヤモンドの原石だ。特にパイロットとしての適性は産まれながらのものだ。借金と刑期の免除? いいだろう、精算してやれ。パイロット一人を育てるのに、幾らかかると思う? 900万ドルだぞ。そのくせ、一人前になったと思ったら、どいつもこいつも民間に乗り換える。
 ニコラ・ミショーは最高のパイロットになる素質がある。釈放と引き替えに、UNFに永久入隊させるんだ!
 かくしてミショーは、刑務所から軍隊へと身柄を移され、そのまま訓練スクールへと放り込まれた。
 ある意味で、ミショーは囚人だった。弱みを握られ、軍から永遠に離れることを許されない囚人だ……彼女がここを出るときは棺に入るときだけだ。その時ですら、彼女の墓石の前には軍関係者が居並ぶだろう。
 ミショーはその点は不満ではなかった。なぜなら、これは罰だからだ。過失とはいえ、一人の人間を死に追いやった責任を彼女は自覚していた。ハードな訓練は自分に架せられた罰だった。コックスに命じてミショーを引っ張った人物は、その点まで彼女の性格を完璧に見抜いていた。
 ミショーはその期待に見事に応えた。入隊から3年後、ニコラ・ミショーは少尉に進級し、ウイングマークを手に飛行学校をトップの成績で卒業したのだ。
 任官しても、彼女の力は抜きんでていた。アナポリスをトップクラスの成績で卒業した男たちが彼女に戦いを挑んだが、全員があっさりと玉砕した。そのあまりの不甲斐なさにミショーは幻滅し……やがて、エリートたちを軽蔑するようになった。望んで軍に入ったわけではない自分に対して、彼等は進んで軍に入り、自分より劣った力しか出せない……そのことが潔癖な彼女には許せなかったのだ。
 ミショーが気を許せる者は、一部のパイロットだけとなった。その中の一人がラングだ。普段のラングは酒乱で粗暴なだけの男だが、戦闘機を操るときはまるで別人だった。努力と鍛錬と集中力が彼にはある。だが、お嬢さん育ちが未だに抜け切らぬカレンとは、どうにも肌が合わなかった……。もっとも、カレンの技量を厳しく見てしまうのは、ミショーが気づかぬ別の理由もあったのだが……。
 ミショーの想いを遮るように、全く別の電子音が響いた。
「コウション。ニューターゲット、ブラックウィドゥ」
「クソ! ロックオンされた!」
 ラングの罵声が響いた。
「全機、回避機動! 渓谷から出ろ!」
 ミショーがコールした瞬間、編隊が分散した。アフターバーナーの咆哮が峡谷に反響し、ストレガの翼端から発生する水蒸気───ベーパーが大気を切り裂く。
 ミショーたちは一斉に上昇を始めた。ブラドギーならともかく、ブラックウィドゥに対して峡谷にとどまる事は自殺行為だからだ。アリスのコールが響いた。
「ブラドギー、ミサイル発射。弾数7。タイプ判明。オーロラ」
 ラングは怒鳴った。
「ターゲットは誰だ!」
「イッツ・ユー」
「クソ!」
 ラングは罵声をあげた。接近して来るミサイルは最悪の存在だった。その上ターゲットは自分……彼が罵るのは当然だった。
 オーロラがなぜパイロットに嫌われているのか? それは、このミサイルが空中ロックオン・システムを採用したハイマニューバータイプだからだ。
 空中ロックオン・システムとは、ミサイルが飛行中に自発的にターゲットを補足する方式だった。事前の探知の必要さえなかった。敵がいるだいたいの方位に向けて発射さえすれば、あとはミサイルが勝手にターゲットを捉える。文字通りのオートシュート、オートキルを目的に開発されたミサイルだ。
 無論、複数が発射された場合は相互にリンクして最適の攻撃パターンを選び、追尾する目標がダブらないよう攻撃する。しかもオーロラは、フィンとロケットモーターが従来のものより改良され、高い機動性も備えている。このミサイルの欠点といえば、誤って味方を攻撃する可能性がある点だった。逆に言えば、全周が敵の場合は最高に使いでのあるミサイルということになる。このミサイルから逃れる方法はただ一つだ。
 ラングはヘッド・アップ・ディスプレイを見た。敵ミサイルの位置を示す目標コンテナの四角い表示が、刻一刻と下に下がってくる。自機に向けて接近していた。相対速度はすでにマッハ5を超えている。
 ラングはフレアとチャフのリリースボタンを押しつつ、ストレガを急旋回させた。古典的だが、この方法でしかオーロラがかわせないことをラングは知っていた。オーロラには、ターゲットがベクターノズルで急減速をかけたときに備え、特殊なプログラムが組み込まれている。
 彼の機体は急上昇をかけつつ急旋回を行っていた。こんな芸当は、怪物的なエンジンパワーを持つストレガ以外では不可能だ。だからこそストレガは数あるエア・コンバットを勝ち抜いてこられた。なぜなら空中戦の基本は、高度と速度で敵より優位に立つことだからだ。そうすれば位置エネルギーは運動エネルギーに、運動エネルギーは位置エネルギーに転換できる。エネルギーの高維持───物理法則が戦闘を決定づける。
 ラングは基本に忠実にストレガを操った。それは彼にとって拷問そのものだった。急旋回と共に視界が暗くなり、視野が急速に狭まる。頭を下にしてストレガは旋回していた。強烈なGが身体をシートに押しつける。Gスーツが作動し、足に向けて降りていく血液の流れをくい止めようと下肢と下腹を猛然と締め付ける。
 機体は上昇から降下に転じ、Gはさらに強さを増した……ラングの視界から色彩が失われていった。グレイアウトだ。Gスーツの作動にも関わらず、脳に向かう血液は足に降り続けている。さらに過度のGは脳そのものを万力のように締め付け、神経シナプスを痛めつけていた。眼球の奥から飛ぶ不思議な色彩と火花はその発端だった。
 このままでは失神かバーディゴだ……ラングは微かにそう思った。
 だが、オーロラは依然としてラングのストレガを追尾していた。ミサイルの接近警報音のピッチが急速に高まる。オーロラがミサイルの信管を作動させるまで、あとほんの数秒なのが、ラングには判った。
 死んでたまるか……ラングは強烈なGと戦いながら、スティックをさらに傾け、同時にベクターノズルを一瞬作動させた。
 機体に強烈な横Gがかかると共に、ストレガは急角度で左に横滑りした。ラングは減速ではなく横滑りにベクターノズルを使った。この判断が彼の命を救った。
 オーロラに進路を修正する時間はなかった。ミサイルは直撃コースを外れ、ラング機を追い抜いた。
 だが、ゼロコンマ2秒後、7発のオーロラはプログラムに従い、一斉に信管を作動させた。
 オーロラの先端に充填されている4キログラムのGコンポ炸薬は、その破壊力をプラネット220上空で解放した。7発で合計28キログラムのGコンポは、100年ほど前の1000ポンド爆弾と同様の爆発力があった……。
「大尉!」
 ラングの恋人───カレン・レイノックス中尉は絶叫した。爆発に包まれたラングのストレガは、バランスを失っていた。
 ブラドギーから発射された7発のオーロラミサイルは、なぜかラングのストレガのみを追尾した。本来の機能から言えば、それぞれ別のストレガを狙うはずなのだが……その解明は結局できなかった。また、今の局面ではソンな事に気を回す余裕は誰にもなかった。なぜなら、オーロラミサイル7発の至近集中爆発を喰らっては、いくらストレガが頑丈でも、そしてラングが名パイロットでも、無傷で済むわけがないからだ……。
 再びカレンは絶叫した。
「大尉、目を覚まして!」
 衝撃の中でラングの意識は朦朧としていた。暗い……暗いな……ここはいったいどこだ……なんてエンジン音だ……エンジン音……エンジン音だと?
 それがキーワードとなった。彼は覚醒した。脳波は最低の活動レベルから一気にピークに達し、肉体のコントロールを取り戻した。
 ラングは目を見開いた。最初に飛び込んできたのは、恐るべきスピードで迫るディープ・グリーンの壁面だった。続いて警報音と共にカレンの叫び声が耳に突き刺さる。
 彼は右のラダーペダルを踏み込むと同時にスティックを引いた。凄まじいGが機体に、そして肉体にかかる。ヘッド・アップ・ディスプレイのGメーターが瞬時に跳ね上がる。
 地上激突寸前に、ラング機は辛くもリカバーした。その時の地面とストレガの空間は、20フィートもなかった。だが、激突は免れた。彼はリカバーしたのだ。
 恐るべき慣性と重力にストレガは辛くもうち勝ち、ラング機は上昇を開始した。プラスGが肉体を締め付けたが、彼は懸命に耐えた。
 やがて、高度の回復を確認したラングは、機体を水平にゆっくりと戻していった。急激にやれば分解の恐れがある。それほど手荒いリカバーだった。
 Gの低下と共に機体はゆっくりと姿勢を取り戻し、水平線が視界に戻ってきた……。
 ラングはため息と共に側面を見た。カレンのストレガが並んで飛んでいた。
 だが、彼等が息つく暇はなかった。脅威ナンバーワンを示す特殊な警報が全機に鳴り響いたのだ。
「IRSTコンタクト・ターゲット、ツー・オ・クロック。シティ防衛用ドギーハウス」
「ドギーハウス!」
 ミショーの愕然とした声が響いた。ドギーハウスは、「動くトーチカ」ともいうべき無人の空中機動防衛機だ。
 その最大の特徴は、徹底した重装甲と強力な火力にあった。普通のミサイルでは歯が立たない相手だ。
 アリスの報告に続き、岩の影からドギーハウスが姿を現した。その姿は、鶏の卵に似ていた。マグネティック・フィールドによって浮遊するその姿は、空力的に揚力を発生して飛ぶ飛行機とは全く異質なものだ。
 ドギーハウスは4機……わずか1機でも防空大隊クラスの火力を誇るドギーハウスの出現は、一同のアドレナリンを一気に分泌させた。
「大尉、離脱しましょう!」
 チャーリーフライトのハント中尉が叫んだ。ストレガ6機で戦える相手ではない。
「逃げたら自動追尾で殺られるだけだ」
「ラングの言う通りよ!やるしかない!」
 ミショーは叫ぶやウェポンベイを開いた。怒号とうなり声と戦術コードが錯綜した。誰もがハイになっていた。編隊の中でクールなのはアリスだけだった。


他章

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2010/03/03 21:05 | Comments(0) | TrackBack(0) | ゲーム

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