==SCENE 06==
ふとラングは、前方を注視した。ミショーのストレガに、後方からマッスルが被るように接近している。まずい、敵は搭載資材を使って攻撃を……彼は思わず怒鳴った。
「ミショー、回避だ!」
次の瞬間、ラングは凍り付いた。自分の見たものが信じられなかった。
マッスルの上部構造物が粉々に砕け散ると共に、そこから黄褐色の粘液が噴出した。それは見る間に内膜を、そして外膜を作り上げ分裂を繰り返し……なんということだ、あれではまるで……まるで生き物じゃないか?
ラングは本質を衝いていた。マッスルの上部構造物を破壊したのは、まぎれもなく生物だった。蠢く巨大な肉塊だ。煽動と収縮を繰り返し、肉片を飛び散らせつつ、それはある形を取り始めた……。
なんだ、あれは? まるであの形状は……ラングは愕然とした。あれは武器だ。間違いない。銃身の形状そのものだ。彼は声帯から声を絞り出そうとした。
その刹那、肉塊から青白い閃光が噴出した。
「なに!」
ラングは叫んだ。閃光は真っ直ぐミショーのストレガへと突き進む。彼女の機体がロールを打ち……辛くも閃光をかわした。
閃光……あれはただの光じゃない。そうだ、あれは間違いなく……。
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「高出力レーザー!?」
ボイド大尉は微かに呟くと、首を捻った。ラング機のアリスは、マッスルの高出力レーザー使用を伝えてきた。だが、スペックから見て、マッスルにそんなものが搭載できる筈がなかった。彼は、データーエラーの可能性を考え、キーを叩いた。
自己診断プログラム・ラン……
アリスは、チェック中を示すコードを返送してきた。ここで、不幸なミスが起きた。ボイドはそのコードをデータエラーの確認と誤解したのだ。このミスは、チェック中を示すコードとデータエラーコード確認済みの数値が似ていることから発生した。(民間とは違い、軍ではまだ数値コードの使用が中心だった。)
彼は蓄積した疲労のためにコードを誤って解釈した。マーフィーの法則は、ストレガ編隊からギャラントへとその適用範囲を広げた。
ボイドは、高出力レーザー云々の報告は誤認と判断した。彼は意図せずもデルタフライト苦戦の一環となった。後にその事実を知った彼は、罪悪感に押しつぶされて不幸な最期を遂げるのだが……それは2年ほど後の話だ。
今は、ラング達に話を戻そう。
シティ上空ではマッスルとストレガの激戦がようやく終わろうとしていた。マッスルは高出力レーザーでミショー達を攻撃した。それに対して、彼等はバスター・グレネードとアサルト・ブレーカーで反撃した。マッスルは、ストレガ3機の集中攻撃の前に爆発し、その残骸をシティのメインストリートへとぶちまけた。
ラングはまだ自分の目が信じられなかった。彼は思わず呟いた。
「あれはいったい……」
「ラング、クラウスとカートもあの片割れに……」
ミショーだった。ミショーが喋った……しかも、よりによってそんな重要なことを今まで!
思わずラングは怒鳴った。
「なぜ言わなかった!」
「言って信じた?」
ラングは詰まった。ミショーの声は、まるで幽鬼そのものだった……その一言に、彼女は全てを込めていた。レーザー装備の化け物に部下を殺された……そんな馬鹿な……誰が信じられる?……お前は自分のミスを隠すためにそんな作り話を……違う!……ほう、だったら証拠を……そんなものはない……見損なったぞ、ミショー。お前がそんな奴とは……沈黙……。
ラングは、仮にミショーが前もって真実を語った場合の反応を全て予測できた。そうだよな、ミショー……俺にはよく判っている。彼は、その意志を一言に凝縮して言った。
「いや……」
今でも信じられない思いだった。
ディースリーは愕然としていた。ミショーの沈黙には意味があった……理由は、彼自身が目の当たりにしていた。
彼はマッスルの高出力レーザーを必死に回避しつつ、果敢に反撃した。その時、ラングからのコールが来た。
「ラングよりディースリー、敵はハイパワーレーザーを装備、警戒しろ」
遅いんだよ! ディースリーは内心で毒づくと、スロットルを全開にした。
ギャラントの通信室では、電信員がコンソールを操作していた。5分前からの情報だ。カテゴリーはフラッシュ。特別緊急・最優先だ。
受信が終わると、彼はデータディスクを引き抜き、それを通信長に渡した。
通信長は、コード・ボックスにデータディスクをセットし、認証コードを入力した。続いて網膜照合と指紋、声紋を入力する。
やがて、コード・ボックスは一枚の通信紙をプリントした。それは方面軍司令部からキナバルへの通信文だった。