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2024/11/22 08:02 |
==NOVEL PHILOSOMA== 05

==SCENE 02==

「ヴィジュアル・ID・ターゲット、ドギーハウス、チャージ・モード接近」
「ドギー、射出しました!」
 チャーリー・フライトのクラウスが叫んだ。
 ドギーハウスからドギーが射出されていた。ドギーは一種の巡航ミサイルだ。オレンジ色のその姿は、ミサイルの尾部に似ていた。フィンだけが飛んでいるような寸詰まりのデザインだ。魚で言えばマンボウに近い。空力的には全く不細工なものだが、攻撃力は高い……。機首に装備している20ミリ機関砲弾を喰らったら、ストレガといえども危険だ。
 ドギーは4機編隊で接近していた。生き残る方法はただ一つ。先にドギーを片づけ、あとは一気にドギーハウスを叩く……ミショーは決断した。
「ハント、カート、ドギーを殺れ。残りはドギーハウス」
「ラジャー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ハントとカートのストレガのウェポン・ベイが開いた。続いてウッドペッカー・ミサイルが空中に放たれる。轟音と共にロケットモーターが点火し、ミサイルは炎と白煙を引きながら目標を目指した。
 ウッドペッカーはヒューズ・エアクラフト社が開発した短射程空対空ミサイルだ。誘導方式は赤外線とCCDイメージセンサーを併用し、高い命中率を誇る。
 空中で爆発が起こった。ハントとカートの放った4発のウッドペッカーは、3発がそれぞれドギーに命中した。だが、残る1機はミサイルを回避し、ストレガへ向かってきた。
 ハント中尉はレーダーをボアサイト・モードに切り替えた。これはレーダーを直前方にのみ固定し、ヘッド・アップ・ディスプレイ内に入ったターゲットを射撃するモードだ。レーダーのビーム幅は60ミル。ヘッド・アップ・ディスプレイの表示幅とほぼ一致する。パイロットは、ただディスプレイ上にターゲットを捉える事に集中すればいい。
 彼はドギーを照準レティクルに捉えた。距離は約1マイル。トリガーを引きかけたハントは、前方にきらめきを見た。なんだ……?
 次の瞬間、彼のストレガは爆発していた。シートを貫く強烈な光が網膜を焼き尽くす。
 オレンジ色に輝く光の塊……それがハントの見た最後の光景だった。
 ドギーの放った20ミリ機関砲弾がストレガのウェポン・ベイを直撃し、残りのミサイルと弾薬を爆発させたのだ。
 その破壊力は圧倒的だった。ハントのストレガは内部からの爆発により瞬時に引き裂かれ、ちぎれ、四散した。
 あとに残ったのは、空中爆発の炎と白煙だけだった……。
「ハント!」
 ミショーは叫んだ。敵はウェポン・ベイを狙った……なんてヤツだ……ならば……。
「フォックス・スリー」
 最初からバルカンで勝負だ。ミショーはスロットルを全開にしてドギーに突撃した。ドギーは真正面───ヘッド音だ。戦闘機相手の空戦では相打ちになるため厳禁されている。危険だ……ええい、かまうものか、墜ちろ!
 バルカンが吠えた。アサルトウイングの付け根から、オレンジ色に輝く弾流がほとばしる。口径20ミリの劣化ウラニウム弾が、徹甲弾、通常弾、曳光弾、焼夷榴弾の順で毎分8000発の高速で放たれる。発射の轟音は電動ノコの唸りにそっくりだ。曳光弾が空中を飛翔するのがはっきり見える。
 ゼロコンマ8秒後、ドギーと曳光弾が交差した。爆発が起きる……ドギーは20ミリ弾の直撃を受け、空中分解した。
 ハントの仇はとった……だが、ドギーハウスはまだ健在だ。
 ミショーは右へバンクして機首をドギーハウスへと向けた。
「全機、フォーメーション・アルファフォー」
「ラジャー」

 ギャラントのCICでは、全員が息を呑んでスクリーンを見つめていた。ストレガに搭載されているビデオカメラからの映像が、メインスクリーンに投影されていた。
「無謀だ……無謀すぎる……」
 呆れ顔でコックスは呟いた。
 ストレガ6機とドギーハウス3機では勝負にならない。ドギーハウスは近接戦闘でも手強い。ミサイル、バルカンを始めとするあらゆる武器を装備している……正面きった接近は、ただ撃墜されに行くようなものだ。

 ミショーにしてもその点は覚悟していた。だが、逃げては捕捉され、結局は撃墜される。ドギーハウスを倒すしか道はないのだ。
 ミショーの作戦はただ一つ。ドギーハウスにロケット弾を集中して叩き込むのだ。チタニウムと特殊セラミックスで構成されている、厚さ180ミリの複合装甲を張り巡らしているドギーハウスを墜とすには、それしかない。
 ヘッド・アップ・ディスプレイにドギーハウスが映った。距離は約7マイル。ミショーはアリスに同時集中攻撃を命じた。
「ファイア」
 ストレガ全機から一斉にロケット弾が発射された。オレンジ色に輝く弾体が虚空の一点に向けて吸い込まれていく。そこはブラドギーが移動するであろう未来位置だった。敵の回避運動の偏差を組みこんで放たれたロケット弾は、74%という……無誘導ロケットとしては素晴らしい確率でドギーハウスにヒットした。
 空中に炸裂が起きた。爆炎がターゲットを包み、雷鳴のような爆発音が響いてくる。
 クラウスが叫んだ。
「やった!」
 さらに爆炎が派生する。炎の壁が一面に広がった。だが妙だ……何かおかしい。
 ラングは目を見開いた。
 爆煙が揺らいだ……次の瞬間、ドギーハウスが炎の衣をまといつつ姿を現した。
「なにぃ!」
 ラングは愕然とした。なんてこった……ヤツの表面を僅かに燃やしただけじゃないか……いったいどういう装甲なんだ……?
 彼は唖然としてドギーハウスを見つめていた。ロケット弾が通じない相手には、炸裂量の少ない対空ミサイルは無力だ。
 他の兵装は……? パルス・レーザーではヤツの特殊セラミックスを貫通できない。唯一の策は荷電粒子ビーム───アサルト・ブレイカーだが、この位置では間違いなく相打ちになる。距離を取るために離脱をかけたら……? ダメだ。離脱中に撃墜されるだけだ。
 その時、不意にディースリーが上昇した。一直線にブラドギーのいる上空に向かった。
 何を血迷ったんだ? あれじゃ、墜としてくれと言っているようなものだ……。思わずラングは怒鳴った。
「ディースリー、降下しろ!」
 だが、ディースリーは無視した。彼はアフターバーナーに点火した。ドーン……という音とともに機体が瞬時に加速され、速度がたちまちマッハ2を超える。ズーム上昇をかけつつ、ディースリーはドギーハウスの上をフライパスした。ウェポン・ベイが開くと共に、黒い物体がドギーハウスめがけて投下される。
 ラングは愕然とした。ディースリーが投下したのは爆弾だった。それも50ポンドのMk-38燃料気化爆弾だ。ラングは叫んだ。
「全機、ブレイク!」
 燃料気化爆弾は、エアロゾールを振りまきつつ、ドギーハウスの上空、約70メートルで信管を作動させた。
 次の瞬間、太陽の輝きにも似た閃光がきらめき、続いて巨大な火球が発生した。一平方センチメートルにつき150キロを超える爆圧がドギーハウスを叩きのめす。燃料気化爆弾の最大の特徴は爆圧にあった。この点だけで比較すれば、小型の戦術核に匹敵する(タイプと弾頭重量にもよるが)威力が燃料気化爆弾にはあった……。
 ラングのストレガは、続いて押し寄せた爆風を喰らって激しく揺れた。アリスが全力で補正しているが、それでもセスナでタービュランスの中に飛び込んだような凄まじさだ。
 激しく揺れるコクピットでラングは驚喜した。なんてヤツだ……一発で蹴りをつけやがった。
 たった一発で……。
 火球が消滅し、爆風が煙を吹き飛ばした……爆心地を見たラングは唖然とした。
 ドギーハウスが飛んでいた位置には、200フィートはある巨大なクレーターが開いていた……奴等は全滅したのだ。
 ラングはカフをあげた。
「ディースリー、よくやった」
 何を今さら……。
 ラングのコールに、ディースリーは心の中で呟いた。
 少年のようなおとなしい容貌とは裏腹に、ディースリーは自信家だった。また、それを裏打ちする能力もある。飛行学校ではトップの成績で、教官機すら何度も撃墜した。彼は、(ラングが知れば目をむくだろうが)自分をトップガンの資格があるパイロットだと絶対的に確信していた。
 ノイズと共に今度は別のコールが響く。
「ディースリー、こちらチャーリー・リーダー、ミショー。編隊に戻れ」
「ラジャー」
 ミショー大尉か……ショートカットのブラウンヘア。チャーリーリーダーの腕利き……。一度、お手合わせ願いたい相手だ。訓練でもプライベートでも……。顔立ちはきついが、ミショー大尉は美人だ。こんなヤクザな部隊にいるにはもったいないほどの……。
 ディースリーはニヤリと笑った。ここは一つ、俺の実力をミショーに認めさせ、彼女を口説いてみるのもおもしろい……俺の見たところ、カレン中尉にはどうやら決まった相手がいるようだからな……。
 ミショー達が新米と軽んじていたディースリー……だが、彼は外観と対照的に、恐ろしいほどシビアな内面を、パイロットとしてハイレベルの力量を持っていた。彼の存在は、ある意味で今回のミッションの性格を象徴するものとなった。後にX-FILE0139として最高機密に指定される220レスキュー・オペレーション……ディースリーとミショーには、その当事者として当局の長期の尋問と拘留が待ち受けており、二人は嫌がうえでも接近するのだが……それは先の話だ。
 続きを話そう。
 ディースリーの戦果を見たギャラントのCICは、今やスーパーボールの観客席と化していた。誰もが歓声を上げ、腕を振り上げている。あのキナバルですら笑みを浮かべていた。
 ただ一人の例外はコックスだった。彼は難しい顔をして手元のモニターを睨んでいた。彼はデータの意味するところを理解しつつあったのだが…不幸な偶然がそれを砕いた。
 警報音と共にメイン・スクリーンにある単語が表示された。その瞬間、歓声はピタリと止んだ……いったい何が……? 思わずコックスは顔を上げ、そして息を呑んだ。

 ミショーは酸素マスクを着け、アリスに上昇を指示した。低空進入はこりごりだった。高度があったほうがまだ対処しやすい。フラッシュ・コールが響いたのはその時だった。
 


他章
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2010/03/10 23:45 | Comments(0) | TrackBack() | ゲーム

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