西暦2088年、科学探査船「S・ホーキング」は、96名の科学者を乗せて星域探査に出発した。探査星域は、第13軍管区……プラネット220が存在する空域だ。星域到着から47時間後、ホーキングはメイディの発信と共に消息を絶った。連合政府は直ちに第13軍管区に対してサーチ・アンド・レスキュー(捜索と救難)を命じた。
SCVギャラントは、39隻投入された捜索艦隊の中の一隻だった。キナバルは副長としてギャラントに乗艦していた。
捜索開始から56時間後、船体の引き裂かれたホーキングをギャラントは発見した。ただちに救助が開始されたが、乗員は全員が行方不明となっていた。破損したブロックから吸い出されたものと推定された。
これがただの民間宇宙船なら、「遺憾極まる悲劇」のひとことで捜索の幕は閉じたはずだ。
キナバルにとっての不幸は、ホーキングが各国の著名な科学者を乗せた科学探査船だったことだ。この遭難は、連合政府の存続を揺るがす大問題へと発展してしまった。
連合政府は、地球を筆頭に各地域の代表が入閣して構成されていた。地球、月、火星、スペースコロニー群、それに各星域に発見された居住可能な植民星……要するに人類が展開している各ポイントの代表が寄り集まった政権だ。皮肉にも16年前、これらはそれぞれ独立していた。無論、そのための政治的駆け引き、謀略、独立戦争を三度ほど経験し、数億の人口を犠牲にした飢えでの話だ。
しかし、宇宙開発にかかるコストは莫大だった。設備の維持、防衛力の維持にも金がかかりすぎた。宇宙開発は一地域のみで実現するには荷が勝ちすぎたのだ。経済破綻を恐れた各地域は(シミュレーションでは混乱による死傷者は数十億という結果が出た)再び統合の道を歩むことを決断した。
ナショナリズムも民族主義の壁も乗り越え、5年の移行期間を経て、連合政府は発足した。その中で誕生したのがUNF(連合軍)とUASA(連合高等科学局)だ。前者は防衛を、後者は各国合同の科学研究局として誕生した。
基本的に、この連合政府はうまく機能した。だが、波風が立った時期もある。その原因の多くは、各地域の民衆から沸き起こる「独立」への回帰だった。民族主義とナショナリズムのゆらぎは、定期的に各地域を揺さぶった。
キナバルにとって不幸なことに、ホーキングは、各地域で再び独立運動が沸き起こったときに遭難した。一部の政治家はこの遭難を利用して民衆を扇動、対立をあおった。
混乱の収拾には、誰かが責任をとらねばならなかった。その生け贄とされたのが、ギャラント副長の地位にあったキナバルだった。
キナバルにとって重ね重ねの不幸は、ギャラントの艦長が連合政府高官の息子だったことだ。彼の代りにキナバルは泥を被る羽目になり、降格処分を受けた。
この処分とほぼ同時期、第13軍管区はアンタッチャブル・エリアに指定され、UNF以外の宇宙船の進入は禁止された。ホーキングの遭難は、隕石の直撃を受けたのが原因だった。このエリアは隕石帯の異様に比率が高く、類似事故の防止のためだと発表があった。
やがて、さらに大きな災害―――バイオハザードによる植民星の全滅―――が起きたことで、民衆はこの事件を忘れた。
だが、キナバルに対する処分はそのままだった。彼は中佐から少佐に降格され、さらに辺境の補給部隊に左遷された……。
6年後、この事実はキナバルに有利に働いた。ギャラントの艦長の父親が、連合政府大統領になったのだ。そして、元艦長は方面群艦隊司令に就任した。彼等は、罪を黙って被ったキナバルに報いるため、彼を大佐に昇進させてギャラント艦長に任命、最新鋭戦闘攻撃機、ストレガをギャラントに最優先で配備した。「UNF奇跡の人事」と巷で評されたキナバルの昇進には、そんな裏があった。もっとも、それでキナバルがやっかみを受けることはあまりなかった。なぜならギャラントは、各部隊をエリミネートされた札付きの部下たちだけで編成されていたからだ。
ギャラントは、通称"ディープ29"と呼ばれていた。「これ以上墜ちるところはない」という意味出だ。兵学校で同期だった友人(彼は既に准将に昇進していた)は、開口一番いってくれたものだ。
「昇進の代償にゴロツキ部隊のお守りとはね。大変だな、君も」
同情と共に、半ば嘲りも込められていたことをキナバルは思い出した。彼はインドの血を引く誇り高い男だった。家系をさかのぼれば、独立運動の闘志からインド軍将軍まで努めた者がいるのがキナバル家だ。
名誉にかけて、自分を嘲笑った者たちを見返してやらねばならない……キナバルはそう思った。ならば、220が発信したエマーコールは、汚名挽回のチャンスではないのか?
「これまでのことはプロローグ、か……」
気を取り直したキナバルは独り呟いた。
「またシェイクスピアですか、大佐?」
キナバルは振り向いた。いつの間にか副長のコックス少佐が傍らに立っていた。
アイバン・コックス少佐は、はげ上がった頭にメタルフレームの眼鏡がよく似合う理知的な顔立ちの男だった。その知的能力は、軍人よりも科学者のそれに近い。知能指数も150はあるはずだ。
キナバルは微笑した。
「ああ……少佐、君もそろそろ古典を読んだらどうだ?」
「考えておきます」
コックスは軽く受け流した。キナバルは、世間では軍人よりはシェイクスピアの研究家として著名だった。退役後は優雅な研究生活が待っているのだろうが……今のコックスには、文学のヨタ話につき合う気はなかった。
「大佐、グレインジャーはどうします?」
キナバルは微かに思案の表情を浮かべた。グレインジャーとは、補給コンテナを搭載した空中補給機の事だ。
「君の判断は?」
「エマーコールの内容が不明です。無駄に終わるかもしれませんが……」
口ではそう言いつつも、コックスは明らかに懸念の表情を浮かべていた。
「よし、出そう。デルタの後に発鑑させろ」
「イエッサー」
その時、緊急通信を示すフラッシュサインが点滅した。コックスは無線マイクを掴んだ。
「どうした?」
「こちらブラボー・リーダー、ターナー。交戦空域を宣言……」
「なに?」
漆黒の宇宙には、ミショーのストレガを先頭に六機が飛行していた。
「チャーリー・アンド・デルタ、発鑑完了」
ミショーはキャット・コー(空母航空管制センター)に報告した。間髪を入れず管制士官が切り返してきた。
「ラジャー、貴チームをレーダーで確認。ヘディング214、大気圏突入に備えろ」
「ラジャー」
ミショーは機体制御モードセレクターを大気圏突入に切り替えた。ディスプレイが点滅し、220のグランドマップが表示される。続いてマップにグリーンのグリッドが被さり、目標位置マーカー、方位マーカーが点滅した。コックスのコールはその時だった。
「ギャラントよりチャーリー・リーダー。先行したアルファとブラボーは交戦中。相手はフレンドリーだ」
「フレンドリー?」
ミショーに続いてラングのコールが響いた。
「味方がなぜ攻撃を?」
「防衛システムのブレイクダウンだ。交戦を避け、渓谷から進入しろ」
ミショーは微かに舌打ちした。都市防衛システムはどの惑星でも人件費の関係から無人で運営されている。ブレイクダウンは今に始まった事ではない……。
「アリス、ルート変更」
了解を意味する電子音と共にストレガ全機の降下制御プログラムが一斉に起動した。
ミショーの機体で交わした情報はリアルタイムで他の機体のアリスに流されていた。アリスは、個体情報を瞬時にデータリンクによって全体に共有化する事が出来た。さらに、情報の価値を自動判別し、瞬時に優先順位をつける機能も搭載されている。パイロットの仕事は、それを確認する事だけだった。なぜなら、ストレガに関する限りアリスの誤動作はゼロだからだ。ストレガ一機につきアリスは七台搭載されていた。それにより同一問題を多数決方式により処理し、誤動作をほぼ完璧に防いでいた。また、問題を並列処理することで高速化も実現していた。
今のところアリスを巡ってのトラブルは皆無で、技術者たちは勝利を収め続けていた。それも当然といえた。アリスの開発には10年の歳月が傾けられたが、その大半はシステムとしての信頼性と安全性を確保するために消費されていた。ロジック、ソースコードに存在する問題点を洗い直し、アルゴリズムをチェックし、デバッグを繰り返し、実機に搭載しフライトテストを幾度も……あらゆるパートに難関は待ち受けていたが、彼等はついに全てのハードルをクリアーした。
このAIは、正式名称の他に"Alice"「アリス」のニックネームを授かり、2年前にUNFに正式採用された。
アリスは何かの頭文字のように思えるが、実は、ルイス・キャロルの小説「不思議の国のアリス」のヒロインからの引用だった。ルイス・キャロルは、本名をC.L.ドッチスンという数学者兼論理学者だった。彼は小説やパラドックスの発案者というだけではなく、本業の論理学でも業績をあげていた。アリスの命名は、AIに関連する論理学に貢献した、ドッチスンの業績を記念してのものだった。また、人間工学の見地から見ても、女性の名前の方が好ましいと言う(もっともらしい)理由もあった。それ故、アリスのボイスはやや女性寄りに調整されていた。
「降下制御プログラムスタート」
大気圏突入を前にアリスがリポートを始めた。このシークエンスに人間は介入しない。全て自動で処理されるのである。
「SIF・モードセレクター3」
SIF―――味方特徴識別装置をアリスは最適モードにセットし、続けて、大気圏突入において最も重要なデバイスを作動させた。
「ヴァリュート展開」
轟音と共にストレガの胴体下部を黒い物体が覆った。それは先端が平らでへこんでいる、ガスで満たされた巨大な風船だった。ヴァリュートシステムは、大気圏突入において発生する空気との摩擦熱を吸収してしまう目的で開発された。それは、自ら燃焼することでストレガを大気の摩擦熱から守り、同時に極超音速衝撃波を造ることで効果的にストレガのスピードを遅くすることができた。
このシステムはボーイングエアロスペース社が実用化、以後の宇宙開発においては標準的に用いられている優れた方式だった。
「大気圏突入スタンバイ……ファイブ、フォー、スリー、ツー、ワン、マーク」
アリスはストレガ全機を最適突入角度で大気圏に突入させた。
たちまちヴァリュートが白熱を始めた。空気分子が凄まじいスピードでヴァリュートに突き進み、運動エネルギーを熱エネルギーへと変換する。高熱と共にヴァリュートはオレンジからホワイトへとその輝きを変え、もてる性能の全てを振り絞ってストレガを大気の摩擦熱から守り続けていた。
同時にヴァリュートは極超音速衝撃波を発生し、機体のスピードを殺していった。
「電位上昇。機体温度上昇。冷却システム・ノーマル……」
空電のノイズと降下の轟音、ヴァリュートが白熱し、徐々に溶解していく音だけがコクピットを満たしていた。
ミショーはキャノピーに映る炎の壁を見つめていた。煉獄の業火も色あせる炎の饗宴が繰り広げられている……。
やがて、ヴァリュートを固定していたベッドが切り離され、220へと落下していった。
アリスは機首を上げ、ストレガを水平飛行に戻すと共にエンジンを始動させた。獰猛なパワーを持つBAA社製可変サイクルエンジンが再び凄まじい咆哮を挙げ始めた。
ミショー達のストレガは編隊を組み、茫洋と広がる放電雲の中へと降下していった。
チャーリー&デルタ……ニコラ・ミショー大尉以下、6名のパイロットたちのオペレーションはこうして始まった。
ギャラント内では、ミショーたちの降下成功を知ったキナバルが内線をコールしていた。
「CAGか、待機中の地上偵察部隊も降ろす。降下ポイントはシティ外周部だ。そうだ、偵察小隊を降下させる。装備はTO/E(携行定数)通りだ……かまわん、責任は私がとる。降ろせ」
キナバルはテレトークを切った。
本来なら充分に偵察を行い、状況分析を行った上で兵力を展開させるのがセオリーだ。だが、今回はその余裕がなかった。サーチ・アンド・レスキューのためには、兵力の逐次投入もやむを得ない処置だ。すべての情報が集まってから行動したのでは手遅れになる。現にその兆候は、220防衛システムのブレイクダウンに現れていた。今のところ先行したアルファとブラボーは無傷だが、この種の暴走は時間の経過と共に加速する傾向がある。つまり、後に続く者ほど損害を被ることになる……キナバルは顔をしかめた。
「デルタフライトはどこだ?」
ミショーのストレガは、渓谷上空を飛んでいた。
「全機、ディープドライブで渓谷に突入、シティに向かう」
各機から一斉に無線のクリック音が二度鳴り響いた。了解を意味する伝統的な方法だ。
ミショーはブレイクダウンした無人機との交戦を控えるため、探知されにくい渓谷からのシティ突入を考えていた。それ故CRTには、220のシティ、「リュイシュウン」を中心に撮影した惑星全域の3D映像が投射されていた。
それは地表全体が不気味なディープグリーンに輝いていた。撮影ミスや機材の故障によるものではない。リアルモードでの映像だ。
220の最大の特徴は、惑星が自ら発光する点にあった。惑星を覆う鉱石が光を放っているのだ。
この点だけでも充分に異様な星だが、地形はさらに異様だった。脳髄を思わせる不気味なしわが、果てしなく続いている。しわは惑星全域を多い、余すところなくディープグリーンの発光を続けていた。
つまり、惑星全域が発光する鉱石に覆われているのだ。
鉱石の詳しい情報は不明だが、その採掘のために五万人を超える人間が220唯一の都市、リュイシュウンに住んでいる。
リュイシュウンは、中央の採掘タワーを中心に放射線状に展開されていた。古代ローマのコロシアム───円形劇場によく似た構造で、この形式の年は頭文字をとってC2と呼ばれている。どうやって侵攻するか……ミショーは、渓谷からリュイシュウンに向けてのルートを知る必要があった。
「アリス、シティへのルートを出せ」
電子音と共にシティを中心としたCGマップが表示された。
グラフィックス表示されたマップに、電子音と共に赤い輝線が伸びた。それはポートからアクセスルートを通り、シティへ突入するルートだった。ミショーがさらに詳しいデータをアリスにコールしようとした瞬間、コクピットに警報音が鳴り響いた。
「レーダーコンタクト。デダヘッド」
「全機、ブレイク!」
反射的にミショーはコールした。可変サイクルエンジンが唸り、瞬時に編隊が散開する。
「フラッシュ。デダヘッド。マグネティック・フィールド探知」
アリスのコールと共にディスプレイが切り替わった。そこには、前方に強力な磁気反応があることが示されている。
一瞥したラングは微かに鼻を鳴らした。この現象は以前にも見たことがある。あれは確か、クラップ戦で起きた現象だ。
さらに警報音が鳴り響いた。
「コーション。目標多数。レーダー・ブラックアウトマグネティック・リアクト・アップ」
やはりな……ラングは兵装コントロールをCCDモードに切り替え、呟いた。
「岩石が磁気浮揚って訳か」
強力な磁気のために、峡谷周辺の岩石が浮き上がっているのだ。滅多にない現象だが、鉱石の組成によっては起こりうる。クラップ星での戦いでラング達はそれを経験していた。
「チャーリーリーダーより全機、排除開始」
「ラジャー。こちらデルタリーダー。カレン、ディースリー、俺に続け」
「ラジャー」
「ラジャー」
二人のコールを聞きつつ、ミショーは兵装コントロール解除スイッチを跳ね上げた。
「フォックスワン・ファイア」
次の瞬間、かすかな衝撃と共にストレガのウェポンベイが開いた。風切り音と同時にランチャーのロックが解除され、ランサーミサイルが投下される。ゼロコンマ3秒後、ランサーのロケットモーターが始動、発射音が腹の下から響く。ロケットモーターの炎と轟音と白煙を残し、ダルドフ社製中射程空対空ミサイル・ランサーがミショーのストレガから放たれた。
彼等の攻撃はそれが始まりだった。
2秒後にはカレンとハントのストレガがランサーを放ち、続いてクラウスとラングのストレガが続く。ストレガから放たれた10発のランサーは、たちまちマッハ5まで加速し、それぞれターゲットを補足していた。ランサーには目標選択アルゴリズムが搭載されており、互いに同じ標的を狙わないように設計されている。発射から34秒後、全てのランサーがターゲットを直撃、信管を一斉に作動させた。
ディスプレイには砕ける岩石が映っている……続いて電子音が鳴り響いた。
「コウション、デダヘッド。ブラドギー探知」
さらに警報音が響いた。この警報は……。
ミショーはかすかに眉をしかめた。
「チャーリーリーダーよりギャラント、補足されました」
ESMによれば、40機以上のブラドギーが前方から接近していた。無人機とはいえ、接近されたら厄介な敵だ。
既にミショーの指は兵装コントロールスイッチへと伸びていた。
ギャラントではキナバルがコンソールを軽く叩いた。ブレイクダウンに対する懸念が早くも現実になった……彼は傍らの副官に向けて頷いた。
「ギャラントよりチャーリー・リーダー、交戦を許可する」
ノイズ混じりのボイスがスピーカーから立て続けに流れた。
「ラジャー。チャーリーリーダーより全機、オール・ウェポンズ・フリー」
「敵、火器管制レーダー使用」
「ラジャー。ディースリー、こちらはデルタリーダー。フロントは俺とカレンがやる。おまえはバックで撃ちもらしを片づけろ」
「ラジャー」
「ブラドギー、接近。スカイブレード、接近」
ラングのコール、そしてアリスの報告を聞きつつ、ミショーは兵装コントロールをSRMにセットした。ブラドギーは無人防衛機、スカイブレードはその母機だ。どちらも墜としやすい敵だ。こんな敵に長射程ミサイルはもったいない……ショート・レンジのウッドペッカーで充分だ……ミショーは微かに反省した。さっきはたかが岩石に貴重なランサーを使ってしまったからだ。やはり昨夜のアルコールがまだ残っている……。
電子音と共にオートセットされたレーダーがレンジ30マイル、方位150度の捜索パターンに切り替わった。ターゲットを示すグリップがレーダーに輝く。あとは、ロックオンのオーラルトーンが響いた瞬間にスティックの発射ボタンを押せばいい。ミショーはコールした。
「全機、コンバットオープン」
蒼空にストレガのコントレールが一斉に伸びた。IN RNGの表示を確認したミショーは、オーラルトーンの響きを聞き、発射ボタンを押した。
ウェポン・ベイの開閉音と共に、短射程ミサイルのウッドペッカーが轟音と共に発射された。それは接近しつつあったブラドギーの胴体に命中、爆発した。
この一発が最初だった。ミショーたちは続く7秒で18機のブラドギーを撃墜し、2機のスカイブレードを葬った。
炎に引き裂かれたスカイブレードが、破片を撒き散らしつつ地表に激突、爆発する。ブラドギーが空中分解し炎の塊が乱舞する。
渓谷上空には無数のコントレール、エンジンの轟音、それに爆発の炎が満ちていた。
ミショー達の戦闘のデータは、ギャラントのCICディスプレイにそっくり投影されていた。暗がりの中でキナバルはじっとデータを見つめ、微かに頷いた。
ミショーたちは冷静に対応している。今のところ、味方に損害はない…味方だと?
思わずキナバルは眉をしかめた。無人機とはいえ、交戦している相手も本来なら味方なのだ……ブレイクダウンのために貴重なパイロットの命を晒すのは馬鹿げている……。
キナバルの考えを読んだようにコックスが言った。
「大佐、司令部に220の最高機密データを要求したいのですが」
「………?」
「防衛システムの解除コードはペンタゴンの機密金庫の中です。コードを要請し、システムをスレイブ・モードに……」
「やってくれ」
頷いたコックスは真っ直ぐドアから出て行った。その態度は、人によっては傲慢そのものに見えた。だが、キナバルは無視した。コックスはそういう男なのだ……何事も手順を簡素化して事を進めてしまう。頭のキレがよく、先が見えすぎる故の欠陥だ。彼がここに流されたのもそれが原因だった。
だが、キナバルは有能な副官を歓迎した。人格に多少の問題があろうと、軍隊は戦うための組織なのだ。有能ならばそれでいい。
「降下させた偵察部隊はどこだ?」
「シティ外周部に無事降下しました。現在、付近を捜索中です」
C2構造のリュイシュウン・シティ外周部には、主に研究施設が建ち並んでいた。
「まるで墓地だな……」
偵察小隊を預かるリチャード・アイスバーグ中尉は、紅星戦機重工社製87式自動小銃を構えながら、辺りを見回した。
白を基調にした研究施設は、いずれも無人だった。建物の形と色は、巨大な墓石そのものだ。
「中尉、来てください!」
アイスバーグは振り向いた。400フィートほどいった所の研究施設の玄関から、部下が手を振ったのが見えた。
「どうした!」アイスバーグは怒鳴りながら駆け出した。
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